プラネタリーディフェンス(天体の地球衝突という究極の自然災害から人類を守る活動)への貢献

人類社会に甚大な災害をもたらす太陽系小天体の地球衝突を回避する技術実証と小天体の性質や起源をさぐる

小惑星や彗星などの太陽系小天体が地球に衝突すると、非常に大きな災害となります。大きさが数十メートルの天体でも、地球に衝突すれば地域的に大きな災害となります。そのような天体の衝突頻度は数十年から200年に1回と言われています。

近い未来に地球に衝突して被害をもたらす可能性がある天体は、恐竜絶滅の原因となったと想定されている直径10kmもあるようなものではなくて、数十mから数百m程度の大きさです。それらの地球衝突回避のための手段としては、探査機を衝突させて軌道を変化させる方法が現実的です。米国NASAは、探査機DARTを2022年9月に小惑星ディディモスの衛星ディモルフォスに衝突させ、軌道変化を確認しました。その衝突による効率を調べるには、小惑星の大きさや密度、表層物性などの情報が必要です。HeraはESAが2024年に打ち上げた探査機で、2026年末にディディモスにランデブーして詳細な観測を実施します。小惑星の地球衝突回避技術の実証と、小天体の性質や起源の究明の両面で貢献します。

HeraはESAの小惑星探査計画で、NASAのDARTと連携する史上初の本格的なプラネタリーディフェンス計画です。JAXAは「はやぶさ2」のTIRを発展させた熱赤外カメラTIRIを開発してHeraに搭載しました。小惑星ディディモスとその衛星ディモルフォスの観測をこのTIRIで行うことで、DART衝突の影響についての調査で大きく貢献します。

日本は、「はやぶさ」や「はやぶさ2」で培った世界を先導する小天体地形学、衝突科学、小惑星ダイナミクス、熱物性などの小惑星科学の知見を持っています。Heraで得られる観測データの解析や解釈に大きく貢献します。

Heraによる小惑星ディモルフォスの探査の想像図
開発中の熱赤外カメラTIRI

小惑星ディディモスは探査機による衝突実験の対象とはなったものの、今後地球に衝突する可能性は当面ありません。ですが、地球に接近が注目されている小惑星があります。小惑星アポフィスです。この小惑星は大きさが約340mと推定され、2029年4月13日に地球から約32,000kmの距離を通過します。この大きさの小惑星が地球にここまで接近するのは観測史上初めてのことです。

アポフィス(Apophis)予測軌道

この機会を捉えて各国がアポフィス探査の計画を進めており、欧州宇宙機関(ESA)はRAMSES(Rapid Apophis Mission for SpacE Safety)ミッションにおいてアポフィスへのランデブー探査を実施予定です。JAXAはRAMSESミッションに対し熱赤外カメラ(TIRI:Thermal InfraRed Imager)と薄膜軽量太陽電池パドル(SAP:Solar Array Paddle)を提供します。また、H3ロケットによる打上げ機会を提供することでESA-JAXA共同ミッションとしてアポフィス探査に参画することを計画しています。

欧州宇宙機関(ESA)との将来大型協力に関する共同声明について
JAXA山川理事長(左)とESAアッシュバッカー長官(右)

また、JAXAで開発中の深宇宙探査技術実証機DESTINY⁺は2028年H3ロケットでRAMSESと相乗りで打ち上げを予定しています。DESTINY⁺の主要な目的は、地球への生命起源物質の供給源と考えられているダストの輸送経路を知るため、惑星間塵及び流星群ダストの分布と小惑星ファエトン(フェートン、Phaethon)周辺におけるダストの物理化学組成やファエトン本体の実態を明らかにするということです。さらにアポフィスをはじめ複数天体へのフライバイも検討しています。

小惑星(3200) ファエトン(Phaethon)をフライバイ探査するDESTINY⁺探査機

これらの取り組みをJAXA横断的に進めるため、JAXA内にプラネタリーディフェンスチームが誕生し、宇宙の飛来物から、地球を守るための地球防衛活動を進めています。

この取り組みを通じて貢献可能なSDGsの目標

  • ・深宇宙探査機に関する技術を向上させることにより、宇宙開発の持続的な発展に貢献します。
  • ・天体の地球衝突という究極の自然災害に対して、衝突回避の技術開発や衝突してくる天体の物理的性質の解明を行うことで、災害回避に貢献します。
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